奥の手を使いました

 本日をもって毎月三回欠かすことなくいらしたお姉さんが、転勤を機に最終回。東京の誰でも知っている大学から、京都の誰でも知っている大学へ、ご栄転。先生ですもの。えらいこっちゃ。

この方の発声の覚束なさの致命的な原因は、真面目に取り組みすぎること。しか、頭の良い方だけに、理屈の理解は並ではありません。マイペースな性格は妨げにはなりませんが、いかんせん、力が入る。おそらく、ぼけっとした外見よりもずーっと集中力があるのでしょう。

それに対して通常は、身体をほぐしたり、心をほぐしたり、いい加減にやってよっなどと声をかけたりしていました。アーホーカーなんて叫ぶ発声練習は比較的有効でした。

しかし、この方の力みを抜く最善策は、とっくに見抜いていたのです。でも私は一般の方よりも、比較的糞がつくほど真面目なので出来なかったのです。しかし、最後だから使ってみましょうと。

なんだと思います?

いとも簡単に力を抜く方法。


そうです。お酒です。この方はお酒がお好きです。お相撲の観られる休日は、冷えたビールを三缶用意してテレビに陣取るなんて、まことにかわいげのあるお話でした。こんなことまで書いてもいいんでしょうか。大丈夫。誰も特定できません。

私が冷温庫からまだ冷えている缶を取り出すと、引っ越しの準備やら何やらで懸案が多いと言って疲れ切っていた顔が案の定、みるみる生き返り、腕まくりまでする始末。五百ミリリットル一番搾り、美味しそうに飲みます。


結果は果たして成功でございました。何故か楽に吸える、声になる。はい、この感覚を素面で再現できますように。と。

自分の身体と心の制御は、難しいものです。でも、ボイストレーニングってそこに行き着きます。

私はお酒を利用するのはこんな時だけです。なにぶん身内がお酒で身を崩したり潰したりした者が多い中で育ちましたので。当たり前ですね。絶好の機会をありがとうと言いたいものです。


東京にくる時にまた、顔出していいですか、

 

とまで言ってくれました。一本のピールのおかげでしょうか。


勿論だ。いつでもご連絡くださいな。


シブイオンガクスタヂオ、こんな雰囲気のままで十年目の春、進行中です。