という基本姿勢だ。
この理由は簡単で、まだ一般人向けのボイストレーニング教室が巷に少なかった独立したての頃の私自身の考え、あるいは感覚では、そもそもボイストレーニングなんてものが胡散臭く、だからこそ、
現金の授受を通して、しっかりと料金に見合うように努めさせていただきます。
という意思表示であり、同時に生徒さんとしては、
現金を支払うことで、支出した分は必ずや得て行こう、
という意思確認、のつもりだった。
その後、ボイストレーニングがボイトレと名を縮めて呼ばれるようになったように、かなりその存在は一般的になってきたし、同様の教室自体も爆発的に増えてしまった。
一般化するということは、料金も一気に抑えられて気軽に始められるようになる、生徒さんも、余暇を楽しむ趣味という意味合いが強くなっていく。そして
月末のレッスンでお忘れになる人が増える
という事態に、実際に直面したのだ。そうすると何が起こるかというと、零細教室としては家賃および微々たるものの光熱費や広告費など月々の支払いに問題が生じるわけだ。漏れなく毎月、末になるとびくびくして過ごしていたものだった。
実際はその前の段階、月謝制でもなく回数制で尚且つ、おそろしいことに振替レッスンは翌月まで有効という時期もあったのだ。ここまでして、なんとか少ない受講者で毎月回していくのが零細教室の実態だった。振替はその月のうちまで、お支払いは月末までにと、統一できるまでの厳しい時代のお話。
ボイストレーニングを一般の人に勧め、広めていく過程においては、まだまだ理解が少ない分、月謝という言葉が表す本来の感覚もなかったものだった。実際、サービス業だと思われる方がとても多かった。
それで致し方なく、銀行振込に対応したものだった。もちろんこのころには、他のたいていの教室では銀行振込はもちろんのこと、銀行口座からの引き落とし処理まで行っているようだったから、私の感覚は当然時代とはかけ離れているのは承知の上だった。理由は最初に述べた通り。
そのうち、シブイオンガクスタヂオの評判が上がり、体験申し込みが殺到し始めると、無断当日キャンセルが激増する。無断当日キャンセルこそは、ボイストレーニングがお手軽気軽なものになり、意志薄弱の人でも申し込めるようになった時代のあらわれであろう。その要因は間違いなく、無料体験レッスンを広めた資本のある教室による悪習によるものだが。彼らは、我々に代わって大いなる広告費を使っているのだから、致し方ない。
そしてこれまた致し方なく、体験レッスンは料金を倍増して完全前金制にした。支払いは、クレジットカード決済およびコンビニ決済である。そのシステムを借りて、月々のレッスン代のお支払いもクレジットカード決済が可能になってしまった。
という流れで、出来上がってきたルールだ。ルールは、試行錯誤に紆余曲折を重ねて、出来上がるものである。ルールには必ず理由があるのだということもできる。きっと、赤信号を前にしたら絶対に停まらなくちゃならなくなった理由にだって、その経緯はあるのだと思う。
さて、ここまで時間をかけてできたルール。もうはや、困ることなどないと思われることだろう。まして、設立当初よりは大きくなった教室だもの。多少ルーズな人がいたところでビクともしないだろう。例外的にそういう漏れがあったっていいだろう?儲かってるだろうに?
と実際に思う人があるようなので書き留めておくが、自分でも信じられないことに儲かっていない。経営をやったことのある人なら自明だが、経費は跳ね上がる一方だし、なんと税金が追いかけて来た。そもそも消費税をまだ、みなさんから預かっていない。想定外の支出に肝を抜かれる。
だから、相変わらずルールには厳しくありたい。
例えばその1、月末までにお振込で、お願いします。と言ったら、月末銀行営業日までに、という意味ではないのか。この十連休が月末月初を跨ぐことくらいずーっと前からアナウンスされて来たろうに。
例えばその2、クレジットカード決済だって締め日があるんだ。だから月末までにとお願いしているんだ。
守れない人が多いから、ルールはまた、変わっていく。えいしーじゃぱん。
シブイオンガクスタヂオのレッスン代の一斉値上げは、消費税が10%になった時に行うと、ずーっとずーっと前に宣言した。とにかく税率をとっとと上げてくれ、でないとこっちはますます大変なんだというのが、私のここ数年の気持ちである。
それはそうと、ここからは完全な余談である。
現金の授受の際、みなさんのやり方は様々である。最も多くの方は、財布からちょうどの額を差し出される。次に多いのは、封筒にちょうどの額をご用意いただく方々。逆に少ないのは、お釣りありますか?と言い添えながら財布からちょっと多めの額を差し出されるかたがた。思いつく限り最も少ないのが、封筒に新札でご用意いただく方々。封筒には、希望のレッスン日時が書き込まれていたり、ひとこと添えてあったり、必ず印を押される方もあったり。まったく色々で面白い。
今のところの私はまだ、期限さえ守ってもらえればその多様さに対して寛容にあろうと思っている。が、かつて実在した、お札を必ず財布から投げるように鍵盤の上に置いていた人や、つけはききますか?と言った人、値切って来た人、たっかーいなどと口走った人たちは、私の場合は確たる意思を持って、時間をかけてでも確実に辞めてもらって来た。
実は私は、自分自身がボイストレーニングを習っていたとき以来、お月謝をおさめる機会はなかったのだが、この四年ほど前から、おさめる機会ができた。そこでの自分が、百円単位まで準備して封筒に入れておおさめする、というやり方をとろうとしていることに驚いた。封筒を忘れては恐縮し、しくじって釣り銭が必要になると汗をかいている自分に、びっくり。一体、どこで覚えたんだろうか。ボイストレーニング習っていたあの頃の自分は、どうだったんだっけか思い出せない。だけども、20年の経験の末きっとそれが一番嬉しかったんだろうな。と思うのである。他人に強要などしない。自然と私が得ただけの感覚だから。