体験レッスンの実例○

 これは、講師側からの述懐ですので、当然幾分手前味噌になる面は、ご容赦下さい。勿論、私のやることですから、大失敗例もあげつらう準備も出来ています。

 

陽焼けしたその青年の生真面目さは、その後ロックバンドで全国ツアーを成就したり、彼の憧れであり師でもあろうボーカリストの方(特に名は秘す、ついでに言えば、断りました。だってメジャーなんですもの)を私に紹介しようとしたほどでした。

 

その、生真面目さなんですが。「悲しい」という歌詞の一フレーズを、心込めて力一杯歌ってしまうような生真面目さでした。それくらい当たり前じゃないかと思われる方もありましょう。が、そのせいで、「し」「い」で極度に伸びが悪くなる、という現象を起こしていました。

 

状態として、上半身の性癖的力みもありましたが、私は、「かなしい」を「やらしい」に換えて歌ってごらん、これは練習なんだから、と導きました。彼は真面目ですから、恥ずかしくもあったことでしょうし、自分の書いた歌詞ですから、不本意でもあったでしょう。が、度胸を決めて思い切って、且つそんな自分に笑ってしまいながら、歌ってみることで、自分の弱点と可能性に気づいてくれました。弱点すなわち、生真面目系統の力み、母音の不明瞭さ、基本姿勢の誤り。そういったものを改めてみることで、伸びの良い声が気持ちよく出てきたことに、気づいて貰えたわけです。